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雇用保険法等の一部改正について

2024/09/19

はじめに

令和6年5月10日「雇用保険法等の一部を改正する法律」が成立しました。

これは、主に雇用保険の基本手当(失業給付)について、その要件や制限を緩和し、より多くの労働者が、より失業給付を受け取りやすくするための改正が含まれています。
(今回の改正には教育訓練給付金や育児休業給付など、その他の改正も含まれていますが、今回は割愛します。)
 

失業給付(失業保険)に関する要点

今回の改正のうち、失業給付に関する要点をご紹介します。

まず、雇用保険の被保険者(対象者のこと)の範囲が拡大されました。
改正前は、週の所定労働時間数が「20時間以上」の労働者が対象だったのですが、改正後は「10時間以上」の労働者が対象になります。
これによって、従来は対象外だった従業員(パート、アルバイトが多いでしょう)も多くが対象者となります。

また、自己都合退職における、失業給付の受け取り開始が早まりました。
自己都合で退職した場合、失業給付を受け取れるようになるまでは、改正前で、待機期間7日・給付制限2か月を待つ必要がありましたが、改正後は、待機期間7日・給付制限1か月となります。
つまり、1か月早く失業給付を受け取れるようになったのです。
(これは原則であり、5年以内に一定回数の自己都合退職をした場合は異なります。)

これに加えて、自己都合退職の場合でも、雇用の安定・就職の促進に必要な職業に関する教育訓練等を自ら受けた場合(資格取得のための勉強をする場合など)には、1か月の給付制限すらなくなります。
つまり、待機期間7日を過ぎれば失業給付を受け取れることもあるのです。

今回の改正は、雇用保険の対象者の拡大、給付制限の緩和といった、失業給付を受け取りやすくなる労働者に有利な改正でして、退職の不安をより少なくし、退職後に学びの機会を作ることが容易になり、「人への投資」の強化等が趣旨とされています。
 

会社・企業側への影響

それでは、会社・企業の側から見ると、今回の改正はどういう影響がありそうでしょうか。

一つ目として、多くの企業の出費が増えることになりそうです。
というのも、雇用保険料は雇っている側にも負担がありますので、週の所定労働時間が「10時間以上20時間未満」だった従業員について、改正後は雇用保険料の負担が生じるようになるからです。

総務省の統計(労働力調査)によると、改正によって新たに対象者となりうる労働者(10時間以上20時間未満)の人数は増加傾向にあり、2023年時点で約506万人いるようで、多くの企業が影響を受けることが見込まれます。

二つ目として、退職者が増えることになりそうです。
これまでは、自己都合退職の場合の給付制限2か月を懸念して(その間の生活費が得られないことを不安視して)、自ら退職を申し出ることに抵抗があった従業員は少なくないと思われます。

改正後は、給付制限がなくなるか、1か月になりますので、自ら退職を申し出る心理的なハードルが下がることになります。

近年、多くの企業で人手不足が問題になっていますが、さらに人材流出が加速することになりそうです。
企業としては、人材を定着させるための工夫がこれまで以上に求められることになり、負担が増加することになりかねません。

三つ目として、これは弁護士特有の視点ですが、従業員が退職する際に「自己都合」とするか、「会社都合」とするかで揉めることが減少しそうです。
自己都合退職の場合は、待機期間7日・給付制限2か月がありますが、会社都合退職の場合は、待機期間7日しかなく、会社都合退職とすることは従業員にとって有利です。
そのため、退職する従業員から「会社都合退職にしてほしい」と求められて、この点で紛糾することが珍しくないのです。

改正後は給付制限が緩和されるため、「自己都合」か「会社都合」かの違いは縮まるといえます。
 

改正法の施行期日

今回の改正がスタートするのは、対象者の拡大は令和10年10月1日と先の話ですが、給付制限の緩和は令和7年4月1日です。

実際にどれほど退職・転職が増加するのかを含めて、どういった影響があるのか注目していきます。

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