はじめに
本コラムでは、近年、裁判例が増加している労働組合による街頭宣伝活動(いわゆる「街宣活動」)は、どこまで正当性が認められるのかについて解説いたします。
街宣活動とは
労働組合が組合員の解雇・配転などの問題の解決を求めて、企業、その親会社等の関係企業に押しかけて面会を求めたり、拡声器等を用いて、当該問題に関する組合の主張を訴え、ビラを配布したりする労働組合の活動を街頭宣伝活動(街宣活動)といいます。
労働組合による街宣活動の正当性の限界
労働組合による街宣活動も正当性を有する限りにおいて、法的な保護を受けます。
それでは、その正当性の限界はどのように判断されているのでしょうか。
1 私宅等の私的な領域での街宣活動の正当性は?
まず、会社役員等の個人の私宅付近(私的な領域)において行われる街宣活動については、労使の問題は、労使関係の場で解決すべきであって、組合活動といえども企業経営者の私生活の領域に立ち入るべきではないと考えられ、裁判所は、私生活の平穏や地域における名誉・信用を侵害する組合活動については、差止請求や損害賠償請求を認めています。
平成元年3月24日東京地裁決定では、労働組合の組合員らによる、会社の会長居宅前(私邸)での面会の強要、拡声器を用いて演説やシュプレヒコールの連呼、会長らの居宅からの出入通行の妨害について、差止請求が認められています。
平成3年5月9日大阪地裁決定は、会社の代表取締役の自宅のインターフォンを連打し、家族に面会を強要し、自宅の塀に横断幕を掲げるなどの組合の行為に対する差止仮処分の申立がなされた事案ですが、裁判所は、当該行為は私的生活の平穏を害する違法なものであると判断し、差止仮処分が認められています。
平成7年1月26日大阪地裁決定では、法人理事らの自宅横の道路において拡声器を使用して、理事らを誹謗する内容の宣伝をしたり、ビラや横断幕にその自宅の部屋番号や電話番号を記載するなどして、地域社会における理事らの名誉・信用を毀損し、侮辱を加えるなどの組合員らの行為は、仮に組合員らが主張するような事実が真実であったとしても、理事らは、人格権に基づき右行為の差止めを求めることができると判断されています。
2 企業付近における街宣活動の正当性の限界は?
企業の社屋付近でなされる街宣活動についても、社会的相当性を超えて企業の名誉・信用や平穏に事業を営む権利を侵害していると認められる場合には、その活動の正当性が否定され、差止請求や損害賠償請求が認められる傾向にあります。
平成17年6月29日東京高裁判決では、会社と従業員の間の解雇係争事件について、元従業員と会社間に雇用関係が存在していない旨の判決が確定したの後に行われた会社に対する執拗な街頭宣伝活動につき、別訴において、元従業員と会社間に雇用関係が存在していない旨の判決が確定した以後は、元従業員らから団体交渉等を求められてもこれに応じなければならない会社の法的義務は確定的に消滅していること等から、元従業員らの執拗な街宣活動等の行為は、会社の名誉、信用及び平穏に営業活動を営む権利を侵害する違法なものと認められるとして、街宣活動の差止めが命じられています。
最後に
本コラムでは、労働組合の団体行動の内の街宣活動について検討しました。
労働組合対応は、会社経営者にとって悩ましい問題です。
上記で見ていただいたとおり、いくら労働組合が法的保護を受けているからといって、会社経営者個人のプライバシー(私的領域)に無断で立ち入ってよいということにはならず、また、企業の信用・名誉、営業の権利、施設管理権との兼ね合いで、度を超えた組合活動は正当性を失います。
弁護士としては、労働問題が生じた場合でも、労使双方が冷静さを失わずに、正々堂々と言論と主張を闘わせ、解決を模索すべきと考えています。
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