はじめに
会社と従業員との意見が対立してトラブルが生じ、交渉した結果、最終的に従業員が退職することは珍しくありません。
その時に、従業員から「会社都合の退職にしてほしい」と言われ、会社として応じてよいのか、という相談をよくお受けします。
本コラムでは、この点について、分かりやすく解説させていただきます。
「自己都合退職」と「会社都合退職」について
「自己都合退職」や「会社都合退職」といった言葉がありますが、実は、これは法律上の用語(法律に明記されている言葉)ではありません。
これは、会社と従業員との関係においては、会社が退職者に発行する、雇用保険の離職票のうち、「離職票-2」の「⑦ 離職理由欄」の記載をどうするのか、という問題です。
面白いことに、この離職理由欄にも、「自己都合」「会社都合」という用語の記載はなく、「1 事業の倒産等によるもの」とか「2 定年による離職」とか、単に退職の理由が記載されているだけです。
この離職理由のどこにチェックがされているかを参考にして、ハローワークにおいて、「会社都合退職」なのかを判断し、退職者が失業保険を受け取れるか、どのくらいの期間受け取れるかを決定しています。
「自己都合退職」の場合、文字通り自分の都合で退職するので、準備して退職することができますが、「会社都合退職」の場合、準備ができないまま職を失うこともあり、失業保険が手厚くなっているのです。
「会社都合退職」に当たる退職者は、法律上、「特定受給資格者」になり、失業保険給付を受けるにあたって優遇されます。
離職票の記載と特定受給資格者の関係
離職票の記載と特定受給資格者(会社都合)との関係を分かりやすく説明します。
・解雇により離職した
⇒ 離職理由4(1)「解雇」は会社都合に該当します。
⇒ 離職理由4(2)「重責解雇」は、従業員の責めに帰すべき重大な理由による解雇になりますので、会社はやむなく解雇したとして、会社都合に該当しません。
・希望退職の募集又は退職勧奨に応じて離職した
⇒ 離職理由4(3)①「人員整理を行うためのもの」等は会社都合に該当します。
⇒ 離職理由3(3)「早期退職優遇制度」は、従業員の希望でもあり、事業主からの働きかけではないため、会社都合に該当しません。
厳密には、失業保険給付の判断はハローワークが行うものなので、必ずしも、離職票のチェックの位置で失業保険給付の扱いが変わるものではありませんが、一般的な理解としては上記のようになります。
「会社都合」とした場合の影響
離職理由について、一般的には、どの離職理由に該当するか不明確ということはありませんが、例外的なトラブルの現場では判断に迷うことが少なくありません。
(例えば、解雇の有効性は争わなくても重責かどうかが争われることや、会社と従業員どちらから退職を言い出したのか曖昧なことがあります。)
労働者側から、「会社都合の退職にして欲しい」という要請を受けて、会社側の弁護士として交渉をする場面もありますので、今回は「会社都合」にした場合の特徴を簡単にご紹介します。
離職理由によっては従業員の転職に影響がありうる
基本的に、退職した従業員は次の職場を探して転職活動をすると思いますが、新しい職場の採用までに「本当に退職したかどうか」の確認として離職票を見せることがあります。
ここまで求められなくても、採用となった場合、雇用保険の確認のために離職票を提出することがあります。
ここで、離職理由「解雇」にチェックがあった場合、前の職場で問題があったのではないか、と疑われることになります。
会社が受給している助成金が切られる可能性がある
助成金によっては、一定期間内に会社都合退職がない、又は一定数以下であることが、支給の条件になっていることが少なくありません。
会社として助成金を受給している場合には、安易に、会社都合退職とすると、助成金を打ち切られる等の影響が出ることが考えられます。
(助成金の種類は多く、今後も変動がありうるため、ここで詳細を説明することは控えます。)
失業保険給付の優遇を受けやすくする
給付を受けられる資格として雇用保険の加入期間がありまして、通常は離職前2年間に12月以上であるのに対し、会社都合の場合は離職前1年間に6月以上で足ります。
また、給付開始時期が、通常は7日+2~3か月後になるのに対し、会社都合の場合は7日後とされています。
さらに、給付を受けられる日数が、通常は90~150日であるのに対し、会社都合の場合は90~330日と最大日数が多くなります(これは年齢や雇用保険の加入期間によって日数が変わります。)。
この、失業保険給付を受けやすいこと、受けられる時期や日数が有利であることが、従業員が会社都合にしてほしいと求める最大の理由と言えます。
他方で、会社にとって自己都合にしてほしい最大の理由は、助成金への影響を心配してでしょう。
最後に
自己都合か会社都合かといった交渉になった時は、会社としては、受け取っている助成金があるか、ある場合に影響がないかを確認の上で、慎重に交渉する必要があると言えます。
従業員との退職の交渉でお悩みでしたら、経験豊富な当事務所にご相談ください。
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