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セクハラを理由とする解雇の有効性が争われた事例(東京地方裁判所平成28年7月19日判決)

2024/02/13

はじめに

近年、セクシュアルハラスメント(セクハラ)に対する世間の意識が高まっており、企業としては、セクハラの通報・申告を受けた場合、調査や対処をすることが求められます。

調査の結果、重大なセクハラが発覚した場合、企業としては毅然とした態度を取らなくてはなりません。
セクハラの重大性に加えて、何度も繰り返している常習犯や、反省の色が全く見られない従業員に対しては、解雇を含めて検討することもあるでしょう。

注意指導でよいか、懲戒処分までするか、懲戒処分として何を選択するか(戒告、減給、出勤停止、懲戒解雇)など、企業にとっては悩ましいところです。

セクハラをした従業員への対応はとても難しい、ということがよく分かる事案として、今回は、東京地方裁判所平成28年7月19日判決をご紹介します。
 

事 例

Y(会社)に勤務していたX(社員)が、諭旨退職の通知後、懲戒解雇されたため解雇無効を主張して雇用契約上の地位確認、未払賃金や賞与及び支給されるべき賃金との差額の支払、諭旨退職及び懲戒解雇につき不法行為による損害賠償を求めた事例です。

Xは営業職の男性で、被害者であるAは女性です。
Xは、飲み会の席でAに対し、「どうやってお客さんを攻略してるの?」「『枕』とかやったの?」(いわゆる枕営業をしたことがあるのか?)という発言をしていました。
また、Xは日ごろからAに対し、「誰と付き合っているの?彼氏はいるの?」「何人(の男性)と付き合っているの?」「どういうの(男性)がタイプなの?」などの多くの問題発言をしていました。

こうしたセクハラを受けている中、XとAはメールで、Yの業務かのような外観を呈して個人的な利益を得ようとする内容のやり取りをしており、XとAが親しげであるかのような内容となっています。

セクハラが始まってから約2年後、Aに対するコンプライアンス違反の調査が開始されると、その直後にAは、Xからセクハラを受けているとYに申告しました。

その後、Yの懲罰委員会が開催され、Xは諭旨退職となり、Xがこれに応じなかったことから懲戒解雇されました。
 

裁判所の判断

Xの各発言は、総じて品位ないし品性を疑わせる内容であり、そのようなことを言われたAに相当の不快感ないし嫌悪感を抱かせ、精神的苦痛を与えたものと認め、これは悪質なセクハラ行為である。

一方で、こういった被害に遭っていた期間中になされたXとAとのメールは、その内容はむしろ親しげなものであるから、Aの不快感ないし嫌悪感や精神的苦痛は、ある程度割り引いて考えるのが相当である。

また、Aがセクハラ申告をした時期は、Aに対するコンプライアンス違反の調査が始まった直後であり、AはXが通報者であると推測し、意趣返しとしてセクハラ申告したとの疑念もあり、その意味でもAの不快感ないし嫌悪感や精神的苦痛の程度は疑問の余地がある。

結果、Xのセクハラ行為の悪質性を過大評価すべきではない、と判断されています。

本件では、その他にも懲戒事由がありましたが、それらを総合考慮しても、解雇にするほどではないとして、解雇は無効と判断されました。
 

考 察

Xの各発言は、誰が見てもセクハラに該当するものであり、これが懲戒事由に当たりうることは当然と考えます。

Xは裁判において、体の接触はない、飲み会の席などの発言に過ぎないから悪質ではないといった弁解をしており、セクハラに対する意識の低さが伺えます。

調査の結果、Xが重大なセクハラをしているとの結論に至ったYとしては、重い懲戒処分とすべきと考えたはずです。

しかし、裁判所の結論は、上記のとおり、解雇は無効(処分として重すぎる)という判断を下しています。

本件は、セクハラの調査、懲戒処分の判断の難しさを教えてくれる事例といえます。

社内でセクハラ申告を受けた場合、会社内で結論を出すのではなく、当事務所のような労働問題に強い弁護士へご相談の上で判断されることをお勧めします。

(取扱業務「ハラスメントの問題」の記事は、コチラ)


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